Sona.
世界のニュースを、日本の文脈で
マネー

未払い賃金128.6億円、2万2605件 勤怠と給与を照合する5項目

厚労省が2025年に扱った事案の集計で、全国の発生率や個人の請求額ではない。15分の一律切り捨てと固定残業代の是正例から、自分の記録、支給項目、差異、相談先を確かめる。

数字のない時計、勤怠と支給時間を表す二本の木製レール、差異を調べる虫眼鏡
勤怠記録と給与に反映された時間を同じ期間で照合し、差異を確認する工程を示す概念模型。実在の記録や事案ではない。 AI生成画像

厚生労働省は2026年8月21日、全国の労働基準監督署が2025年に取り扱った<strong>賃金不払が疑われる事案</strong>の監督指導結果を公表した。件数は2万2605件、対象労働者は17万3016人、金額は128億5782万円。前年より件数は251件増え、対象人数と金額は減った。

ここで最初に線を引きたい。128.6億円は、日本で働く人全体の未払い賃金を推計した数字ではない。労働基準監督署が2025年中に扱った事案の集計で、年内に解決せず翌年へ繰り越したもの、倒産や事業主の行方不明で支払われなかったものも含む。自分の未払い額を推定するために人数で割ることもできない。

「解決96.1%」にも部分払いが含まれる

集計された事案のうち、監督署の指導を受けて使用者が賃金を支払い、2025年中に解決したと整理されたのは2万1731件で、件数ベースの96.1%だった。対象労働者は16万7828人、支払われた金額は109億9703万円。だが厚労省の注記では、<strong>不払賃金の一部だけが支払われた事案も「支払い・解決」に含む</strong>。96.1%を「全額回収できた人の割合」と読むのは正確ではない。

業種別では、件数は商業が4701件、製造業が4370件、保健衛生業が3620件。金額は保健衛生業が27.1億円、製造業が26.0億円だった。これは監督指導で把握した構成であり、各業種で働く人の人数を分母にした発生率ではない。自分の業種の順位だけで、勤務先に問題がある、またはないと決める材料にはならない。

是正例1:15分の一律切り捨て

公表資料の一つ目の是正例は、自動車・同付属品製造業の事業場だ。ICカードで労働時間を管理しながら、始業直前と終業直後の各15分について、実際に業務をしたかどうかにかかわらず一律に切り捨てていた。監督署の指導後、過去へさかのぼって調べると、その時間帯に働いていた人が複数確認され、差額の割増賃金を追加で支払い、一律切り捨てを廃止した。

この事例から「勤怠画面に15分単位の表示があれば、すべて直ちに違法」と一般化するのも避けたい。問題になったのは、業務に従事していた可能性を確認せず、働いた時間を一律に落としていた点だ。厚労省のガイドラインは、労働時間を使用者の指揮命令下に置かれている時間とし、明示または黙示の指示で行う業務、必要な着替えや業務後の清掃なども条件によって労働時間に当たると説明する。使用者には、労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録することが求められる。

是正例2:固定残業代を超えた時間と深夜分

二つ目は建設資材などの卸売業で、月20時間分の固定残業代を支給していた事例だ。事業場は出退勤と時間外労働を把握していたが、20時間を超えた時間外労働を確認・管理せず、その分と深夜労働の割増賃金を支払っていなかった。指導後、時間外と深夜の時間数を再計算し、差額を追加で支払った。

固定残業代があることと、何時間働いても追加支給がないことは同じではない。厚労省資料は、通常の労働時間の賃金に当たる部分と、割増賃金に当たる部分を判別できるようにし、固定残業代部分が実際の時間外労働などに応じた割増賃金額を下回れば差額を支払う必要があるとしている。固定残業の名称だけでなく、対象時間、対象となる働き方、超過分と深夜・休日分の扱いを労働条件通知書や就業規則、給与明細で確認する必要がある。

同じ給与計算期間で照合する5項目

個人の支払額をこの記事だけで計算することはできない。雇用契約、所定労働時間、変形労働時間制やフレックスタイム制の有無、休憩、休日、賃金項目などで計算が変わるためだ。まずは「疑いがあるか」を、同じ給与計算期間の資料で確認する。

  • <strong>労働条件。</strong> 労働条件通知書、雇用契約書、就業規則で、所定の始業・終業、休憩、休日、賃金締切日、固定残業代の名称と内訳を確認する。
  • <strong>実際の始業・終業と休憩。</strong> 勤怠アプリ、タイムカード、ICカード、シフト、業務上の連絡など、自分が適法に確認できる記録を同じ期間で並べる。会社や同僚の機密・個人情報を無断で持ち出さない。
  • <strong>給与明細の時間と支給項目。</strong> 基本給、時間外・休日・深夜の時間数と手当、控除を分ける。総支給額だけで合っていると判断しない。
  • <strong>差異の場所。</strong> 日ごとの記録と支給対象時間を照合し、端数処理、申請漏れ、休憩扱い、固定残業の超過、深夜・休日のどこで差が出たかを絞る。推測額より、日付と時間帯を先に残す。
  • <strong>会社の説明。</strong> 給与・人事担当へ、対象期間、確認した記録、分からない支給項目を具体的に示し、計算根拠を確認する。回答日と説明内容も保存する。

記録が一致しないからといって、同僚へ一斉送信したり、公開の場で会社名と個人名を出して断定したりする前に、まず計算期間と制度をそろえる。反対に、給与システムの表示や固定残業代という名称だけで問題がないと自己完結もしない。日ごとの事実、給与の内訳、会社の説明を分けて残すと、相談時に何を確認したいのか伝えやすい。

夜間・休日の相談と、指導できる窓口は別

厚労省委託の<a href="https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/lp/hotline/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">労働条件相談「ほっとライン」</a>は、賃金不払残業などについて無料・匿名で一般相談を受ける。日本語窓口は月〜金曜の17時〜22時、土日・祝日の9時〜21時で、年末年始を除く。電話相談は情報提供と関係機関の案内をする窓口で、事業場への指導はできない。

法令違反の疑いがあり、行政の対応が必要な場合は、労働基準監督署が相談・申告先になる。賃下げ、配置転換、いじめなどを含む幅広い職場トラブルは、都道府県労働局や監督署内などの総合労働相談コーナーでも無料・予約不要で相談でき、法違反の疑いがあれば権限を持つ部署へ取り次ぐ。窓口へ連絡する前に、対象期間、勤務先、雇用形態、勤怠と明細の差、会社へ確認した内容を短くまとめておく。

今回の集計が示すのは、監督署が扱った事案の規模と、現実に起きた記録・支給のずれ方だ。大きな総額を自分の被害へ直結させるのではなく、自分の一か月を同じ物差しで見直す。労働条件、実時間、給与明細、差異、説明の五つがそろえば、不安を事実確認へ変えられる。

編集部注。 本稿は2026年8月23日02:27 UTC時点の厚生労働省公表資料に基づく一般的な確認手順で、個別の未払い額や法的評価を判断するものではありません。勤務制度と事実関係により扱いは異なります。個別事案は勤務先、労働基準監督署、労働局、弁護士・社会保険労務士など適切な窓口へ確認してください。

出典

  1. 厚生労働省|賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)を公表(2026年8月21日)
  2. 厚生労働省|監督指導結果、業種別内訳、15分切り捨て・固定残業代の是正例(PDF)
  3. 厚生労働省|労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
  4. 厚生労働省|労働条件相談「ほっとライン」(2026年度の受付時間、匿名・無料相談、対応範囲)
  5. 厚生労働省|総合労働相談コーナーの案内(対象、費用、法令違反の取次ぎ)

改善にご協力ください

この記事は役に立ちましたか?

匿名のご意見は、Sona Newsの記事、見出し、出典の説明を改善するために活用します。

次の記事

雨粒の付いた空の書類ケースと、無記名の本人確認札を載せた窓口トレーの概念模型
マネー
千葉の大雨、通帳・印鑑を失っても払戻し相談 返済・保険は先に連絡

金融庁と関東財務局・日銀が、災害救助法適用地域の被災者に柔軟対応を要請。自動適用や一律免除ではない。安全確保の後、口座・借入・保険を分け、証明書がなくてもまず相談する。

続きを読む

マネーの記事をもっと見る

雨粒の付いた空の書類ケースと、無記名の本人確認札を載せた窓口トレーの概念模型 マネー
千葉の大雨、通帳・印鑑を失っても払戻し相談 返済・保険は先に連絡
東京の通勤風景を背に、タイムカードと賃金封筒を時計の前で確認する概念画像 マネー
東京都の最低賃金1280円を答申 今すぐ適用ではない、明細で見る3点
医療費の月額上限と年間上限を、直線と12区画の円形模型で示す手元 マネー
高額療養費、8月診療分から上限改定 「月額」と「年間」を分けて確認
Sona Newsの日本版シニアエディター、加藤 健司
執筆
加藤 健司
日本版シニアエディター

加藤健司はSona News日本版を担当し、国際関係、アジア経済、安全保障、テクノロジーを、検証可能な文脈と実用性を重視して伝えます。

次に読む 千葉の大雨、通帳・印鑑を失っても払戻し相談 返済・保険は先に連絡